オスのツキノワグマによる「子殺し」 ピッキオが学術的に初確認
クマの保護管理に取り組むNPO法人ピッキオは10月15日、オスのツキノワグマが子グマを殺す事例を、世界で初めて学術的に確認したと発表した。スタッフの玉谷宏夫さん、アメリア・ハイオンズさん、日本獣医生命科学大学の山本俊昭准教授のまとめた論文が、国際クマ協会の学会誌「Ursus」のオンライン版(9月23日付)に掲載された。
出産率確認のため、冬眠穴前に設置したセンサーカメラは2016年4月9日から5月6日まで、メスグマ「ミロク」と2頭の子グマの姿を撮影。6日正午頃に、別の成獣クマが現れると、ミロクと2時間半ほど激しく交戦。16時半に成獣クマが脱力状態の子グマをくわえて持ち去った。その後の調査で、ミロクと争い子グマを持ち去ったのは、捕獲歴のあるオスの「アクオス」と判明した。
14日、冬眠穴から約500mの場所で、玉谷さんがミロクの死体を発見。状況から、アクオスとの争いで足に傷を負い、急斜面を歩いていて転げ落ち、肋骨に刺さった枝が致命傷になったと推測。子グマの死体は確認されていない。
ヒグマ、ホッキョクグマなどは以前から、成獣による同種の子殺しの事例が確認されている。その動機は、メスの発情を促して子孫を残すためか、栄養摂取のための共食いと考えられている。今回のケースからは、動機解明までには至っていない。
この他に子グマが不自然に亡くなっている場面を、軽井沢の森で3例ほど見てきたという玉谷さん。「古い時代からオスグマの子殺しは繰り返されてきた。一見ひどいと思われる行動にも、人間の感情を超えた意味がある。その動機や頻度を解明することで、正しい推計ができ、適切な保護管理にもつながる」と、引き続き調査していく考えを示した。
2016年5月6日16時半頃、ぐったりした子グマをくわえたオスの「アクオス」。(提供・ピッキオ)